2010年11月09日

AHAの新しいガイドラインG2010と個人的な所感


こんばんは。AHA 岡山 BLS JEMTA日本救命協会の久我です。

今日はAHAの新しいガイドラインG2010とその所感です。
全く個人的な所感で、記憶違いもあるかもしれませんので、
その分差し引いてご覧ください。(LOE9?です。)

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■(1)ガイドライン作成に携われた方へ
大変お疲れさまでございました。また予定通りのG2010の発表おめでとうございます。

以前、ILCORのガイドライン策定に至る過程を勉強したいと思い、ILCORのホームページ
http://www.ilcor.org/en/home/
の一部の拙訳をしました。
膨大な量であることはわかっていたので、横一面と縦一本の和訳に限りました。
・横一面というのは、TaskForce名の和訳です。
  http://jemta.org/index_ilcor2010.html
・縦一本というのは、一つのTaskForce「BLS-004B」の和訳です。
  病院外(自宅も含む)で心停止した成人と小児傷病者において、
  伝統的なEMSの対応とは対照的に
  パブリックアクセスのAEDプログラムの推進は、
  自己心拍の再開や蘇生の功を奏する転帰を改善するか?
  http://jemta.org/index_ilcor2010q_bls004b.html
これだけなのですが、訳するのに4ヶ月半かかりました。
TaskForceの全体は、非常に膨大な量で、すごい作業だと思います。
著者が自身の名誉にかけて発表したものをレビューし、エビデンスレベルを付与するわけ
ですので、大変だったと思います。もし間違って低く評価されれば、クレームも予想され
ますし、雑誌のレフリーの目もあると思います。
またAHAは単体で作業するより、ILCORを作って国際的に仕事をする方が難しいと思います
が、これだけの膨大な量をボランティアでされておられるわけで、深く頭が下がる思いで
す。このような過程を経て作成されるガイドラインは、まさに論文の中の論文だと思いま
す。

■(2)ガイドライン発表の予定と実績
・ILCOR       10月18日(月)13:30JST発表
・AHA        10月18日(月)13:30JST発表
・ERC        10月18日(月)13:30JST発表
・日本救急医療財団  10月19日(火)12:00JST予定(少し遅れたようです。私は13:45にDL)
・日本蘇生協議会   10月19日(火)12:00JST予定(少し遅れたようです。私は14:30にDL)

日本救急医療財団のHPでは、ILCORの発表は10月18日(月)14:30JSTの予定である旨の表記
がありましたが、実際はERCと同じだったと思います。それぞれ、ほとんど予定通りに発
表されたようです。G2010ではILCORの発表と同時に加盟団体のガイドラインを発表され
たので、準備にかなり力を入れておられたのではないかと思います。
日本版ガイドラインも今回は、ほぼ同時でしたので、作成に関してご苦労があったのでは
ないかと思います。
ERCは発表前から、カウントダウンタイマーを表示されていました。ILCORのホームページ
は現在は独自ドメインを取られていますが、以前はAHAホームページのドメインの下に
ありました。
ILCORは実質的に主にAHAが経済的、人的に支えているのではないかと思います。

■(3)AHAのソフトパワーと誠意
ハードパワーというのは、権威によるゴリ押しです。ソフトパワーというのはエビデンス
に基づいた誠意です。AHAは世界最大の循環器学会であり、健康管理に関する最大の
ボランティア団体です。今回の新しいガイドラインを見て、改めてAHAのソフトパワーと
誠意を感じました。
AHAが2008年の3月にハンズオンリーCPRを発表した時は、ILCORの他の所属団体からは、
同意を得ることができませんでした。他の所属団体からは明らかなNOの表示がされて
いました。しかし、AHAはそのことに対して批判はされなかったと思います。
AHAのECCトレーニングのインストラクターは他の団体を批判してはいけないことになって
いますが、AHA自身もそのことを守られていると思います。
今まで教育的な効果から、ABCの順にこだわっていたBLSアルゴリズムも、救命率の高く
なるように変更されています。
反応と呼吸の2つの情報を得てから緊急コールするように変更されましたが、これはERC
の以前のガイドラインと同様です。乳児の胸骨圧迫の深さが胸の厚さの1/2〜1/3から、
1/3に変更されましたが、これも以前他団体からも1/2は難しい旨指摘されていました。
面子などに固執せず、エビデンスに基づいて、よりいい方向にガイドラインを変更されて
いると思います。
また、ガイドラインのハイライト
http://tinyurl.com/22js5xy
http://www.heart.org/HEARTORG/CPRAndECC/Science/Guidelines/Guidelines-Highlights_UCM_317219_SubHomePage.jsp
に関してですが、
今回は、英語、アラビア語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語、韓国語、
ポーランド語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語、簡体字中国語、繁体字中国語
と、13カ国語で発表されています。言語の壁を取り除くべく、よくこれだけ準備をされ
たことと思います。日本語は非常にありがたかったです。

■(4)BLSのアルゴリズムの改善 (A-B-Cから、C-A-Bへ)
AHAはこれまで、「ABCの順」という語呂合わせと言うか、教育的効果から、A(気道確保)
B(人工呼吸)、C(胸骨圧迫)の順でCPRを開始するとしてきました。

・G2005の問題点
以下はAHA-BLS-HCPのDVDにおいて、救急隊のリサさんが行うCPRのデモの解析です。
DVDーBLSコースの受講生:マネキン比=1:1の時の17:53の所で、病院に見舞いに来られた
ジェームズさんが病院の玄関先の芝生の上で倒れたところをリサさんが助ける場面です。
リサさんがジェームズさんの横に着いたときからの時間です。

(1)反応の確認  3秒 □□□
(2)緊急コール  3秒 □□□
(3)気道確保   2秒 □□
(4)呼吸の確認  8秒 □□□□□□□□
(5)人工呼吸  18秒 □□□□□□□□□□□□□□□□□□
(6)脈の確認   5秒 □□□□□
(7)胸を肌蹴る  4秒 □□□□
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圧迫開始まで合計46秒

G2005では、イニシャルブレス(一番初めの人工呼吸)が、一番時間がかかっています。
このデモでは、カバンからフェースマスク(ポケットマスク)を取り出して、組み立てて、
顔面にセットするまで約13秒です。
成人の場合は心原性の心停止が多いので、倒れてすぐの段階ではまだ血液中に酸素が
残っていますので最初の数分間は胸骨圧迫だけで十分循環は回ります。
ハンズオンリーCPRが推奨されたのはこの理由からでした。ABCの順にこだわると
胸骨圧迫の開始までが長くなり、これが問題でした。

・G2010(BLS-HCP)の場合(予想)
(1)反応の確認  3秒 □□□
(4)呼吸の確認  3秒 □□□
(2)緊急コール  3秒 □□□
(6)脈の確認   5秒 □□□□□
(7)胸を肌蹴る  4秒 □□□□
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圧迫開始まで合計22秒

G2010では、イニシャルブレスが省略されました。また今までの呼吸の確認で「見て、
聞いて、感じて(5秒以上10秒以内)」が削除され、HCPは反応の確認をする際に呼吸を
手短に確認して心停止の徴候を見つけることになりました。
(ただ、まだBLSのテキストがでていませんので、この「手短に呼吸を確認する」のが
どれくらいの時間でするのか不明です。上記の例では3秒かけてする計算で見積もり
ました。)
この見積もりでは胸骨圧迫の開始まで、合計22秒です。

この例では、G2010では、G2005より、24秒だけ胸骨圧迫の開始時間が早くなります。
では、24秒早く胸骨圧迫をするとどれくらい救命率(y)が改善されるのでしょうか。
以下は、場当たり的な無理やりの見積もり(LOE8?)ですが、3つの仮定
・倒れて0秒で、すぐ除細動すると蘇生率は90%。(初期値c=0.9)
・倒れてから何もせず、その後(経過時間x)、除細動すると蘇生率は10%/min低下する。
 (y=-0.1x+c :x[min])
・倒れてからすぐCPRを開始し、その後除細動すると蘇生率は3%/min低下する。
 (y=-0.03x+c)
で見積もると、
「G2010のアルゴリズムは、G2005のアルゴリズムより約2.6%改善される」
という計算結果になりました。(時間ができたら詳細を別記事にしたいと思います。)

■(5)乳児のAED使用
 乳児については、以前はAEDの使用に関して、推奨も反論もされていませんでした。
 今回のガイドラインでは、手動の除細動器(2〜4J/kg)が望ましいですが、なければ、
 小児用パッドでAEDを使用してよいことになりました。また、小児用パッドがなければ
 成人用を用いてもよいとの勧告になっています。
■(6)アメリカ赤十字との共著でのファーストエイド(応急処置)の項目の追加
 AHAは、アメリカ赤十字ARCと共同して、全米ファーストエイド学術審議会を設立し、
 ファーストエイド論文のレビューと評価を行っています。
 但し、前々回G2000、前回G2000のガイドラインの項目名には、特にアメリカ赤十字の
 名前は含まれていませんでした。
 (但しハイライトには「前回もARCと共同」との記述はあります。)
 しかし、今回のファーストエイドの項目名は
 2010 American Heart Association and
 American Red Cross Guidelines for First Aid:
 Part 17: First Aid: 2010 American Heart Association and
 American Red Cross Guidelines for First Aidとなっており、
 前回改訂時と違ってアメリカ赤十字と共著でファーストエイドが追加されています。
 「2010AHAとARCのファーストエイドガイドライン」という表現で『共著』が強調され
 ています。これはファーストエイド以外の他のPart 1〜16の項目にはない表現です。
 論文を書かれたことのある方はお分かりと思いますが、謝辞の所に相手の名前をあげ
 ることと、連盟にすることではその論文の意味が違ってきます。
 学術団体でない他団体でも見下げることなく正当に評価されている証左だと思います。

■(6)その他
・胸骨圧迫のテンポが100回/分以上になりました。
 アメリカのコースでは、100回/分以下になるケースがあるようですが、日本のコース
 では、早いことはあっても遅いことはありません。これにより、100回/分にあわせる
 ような無駄なフィードバックが不必要になりました。
・胸骨圧迫の深さが2インチ(5cm)以上になりました。
・チーム蘇生の強調
 G2005のBLSコースではAEDと乳児の所は2人法の練習はありましたが、G2010では個々
 のスキルだけでなくチームメンバーに対して、チームとして効果的に行動することを
 教えるべきとなっています。新しいコースではACLSやPALSに近い形態での練習も追加
 されるかもしれないと思いました。
・NRP(新生児蘇生)での蘇生努力の保留または中止
 前ガイドラインの再確認でもあるとのことですが、「心拍数を検出できない新生児で
 は10分間検出できないままの場合、蘇生の中止を考慮するのが適切である。」との
 勧告です。
 個人的な意見で非常に気がひけますが、この勧告は残念だと思いました。
 実際に現場で、ドクターが10分たったことを理由に蘇生行為を止めたドクターの下に
 おられた看護師さんが、ドクターが去った後も30分を超えてCPRを続けたところ、急に
 肌が赤くなって蘇生できたケースがあるからです。
・AEDのプロトコルは前ガイドラインと変更はありません。
 前回の改定では、ショックの回数が変わったため、AEDの買い替えやソフトウェアの
 アップデートが必要でした。
 今回は変更はないため、G2005プロトコルのAEDをそのまま使えます。

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posted by jemta at 03:11| 日記