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http://jemta.org/index_200811.html
メーリングリストにご参加の皆様
こんにちは。
AHA岡山BLS・日本救命協会の久我です。
新型コロナウィルスの第2波のピークは過ぎたような感もありますが、
「Go To トラベル」キャンペーンによる次の波も懸念されます。
今日は、群馬県伊勢崎市で40.1℃が記録され、今年全国初の40℃超でした。
岡山市も昨日は36.1℃、今日は33.9℃でした。
8月2日までの1週間の熱中症の搬送者数は3千人を越えています。
猛暑お見舞い申し上げます。
さて、題記の件ですが、
3年前の8月20日の米国フォルマースのマラソン大会が開催された時に
労作性熱中症のファーストエイドについて、投稿させていただきましたが、
http://jemta.org/index_170820.html
本投稿は、同様の投稿です。
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質問:
深部体温が40.5℃を超える重症の熱中症(V度熱中症)で、現場で機材が使える場合
以下のどの方法が体を冷やすのに最も適切でしょうか?
それぞれに、点数をつけて下さい。
(1)アイスパックで、首、腋窩、鼠径部の太い血管を冷やす
(2)アイスパックで、頬、手のひら、足底を冷やす
(3)氷で10℃まで下げた水風呂に、あごまでつかる
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答え:
V度熱中症の場合、30分以内に39℃まで下げないとほぼ亡くなることが
40年前にわかっています。
熱中症診療の世界の第一人者であるCasa先生の熱中症治療のゴールドスタンダードでは、
30分以内に39℃下げることが目標になっており、米国スポーツ医学会(ACSM)、
全米アスレティック・トレーナーズ協会(NATA)も推奨しています。
例えば、深部体温が43℃の場合、30分で4℃下げないといけないので、
冷却速度で言えば、0.14℃/分で冷却する必要があります。
米国では、"Cool first, Transport second"(冷却第一、輸送はそのあと)の
スローガンが一般的になっています。重症の労作性熱中症の場合、
救急隊は傷病者を病院には運ばず、現場で冷やしてから、必要なら病院に運びます。
他の症例、例えば、傷病者がVFの場合、日本でもまず現場で除細動を行って病
院に運びます。
運んでから、病院で除細動しても助からないからです。
日本は、PAD(公衆AED)の導入が、欧米より10年以上遅れたという悪い実績がありますが
熱中症の診療に関しては、もっと悪く、欧米より30年以上遅れていると思います。
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(1)は最も非効率です。首、腋窩、鼠径部等の太い血管を冷やすのは直感的ですが、
冷却速度は0.017 ℃/分しかありません。
この方法は、上記の例で言えば100点満点中、13点です。
但し、殆どの医師・看護師の方は、この(1)を選ばれると思います。
学校でこう教えているからではないかと思います。
(2)は、(1)よりはましであり、もし現場にアイスパックしか使えないのなら、
頬、手のひら、足底を冷やすべきです。
手のひらや足の裏は、AVA血管があり、
この部分は、人体のラジエーター領域となっており、効果的に冷やすことが可能です。
この無毛皮膚領域をアイスパックで冷やせば、0.03℃/分で冷やせます。
この方法は、上記の例で言えば100点満点中、23点です。(1)より倍近い点数です。

https://www.wemjournal.org/article/S1080-6032(14)00405-0/fulltext
(3)は、ベストな方法です。人を救うには、これしか方法がありません。
10℃の冷水では、0.2℃/分で冷却可能です。上記の例で言えば150点です。
データから見ると、1984年から、米国のフォルマースマラソン大会では、この
冷水浸漬法CWI(Cold Water Immersion)が使われています。会場のテント内に
バスタブと氷が用意され、運ばれた傷病者の直腸に10-12cm程度センサーを入れて
傷病者をあごまでつけて、直腸音が39℃に下がったら、ひきあげます。
重症の274人の傷病者に 応急手当されており、全員助かっており、
歩いて帰宅しています。救命率100%です。
日本人の方は、熱中症の人を急に10℃の氷水につけたら、
心臓マヒを 起こすんじゃないかと懸念するかもしれませんが、
現場でVFになったことはなく、傷病者から「 寒かった」とのクレームはなかったと
論文に書かれています。
V度熱中症では、体温調整機能は破綻しています。このような状況では体は冷水環境を
受け入れるのではないかと思います。
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個人的な感想を申し上げれば、日本は熱中症診療に関しては欧米に30年以上遅れていると
思います。日本の医師の方は、まず学校で直腸温の計り方を習っていないと思います。
なので、殆どの日本の医師は直腸温を計れないはずです。
看護師さんも同様ですが、看護師向けのサイトには、直腸のプローブは5-6cm
入れるように書いてあるのが多いと思いますが、これは単に直腸の中の3つのヒダのうち、
最初のヒダにあたらないようにと単に考えているからです。
弊会のAHAのファーストエイドコースでは、実際の直腸プローブを
触っていただいていますが、結構フニャフニャです。
BETHEL University Sports Medicine
Measuring Rectal Temperature Skills Video
https://www.youtube.com/watch?v=aeEWrqtqRNQ
直腸温の計測法を行った論文では、皆10-12cmくらい入れています。
これぐらい入れないと、正しく深部体温を測れないからですが、
直腸温度計測方法そのものを研究した論文では、
15cm以上必要だと書かれた論文もありました。
本来は、救急医学会が、救急隊の訓練も含めて、もっと積極的にCWIを推進すべきだと
思いますが、診療ガイドラインでは、単に紹介するだけにとどまっています。
市民AEDの日本への導入に関しても、学会や医師会が推進してやったわけではなく、
海外に行った日本人が欧米の状況を見て、導入を図った経緯があります。
日本医師会は、PAD導入に関しては、当初は反対の立場を取られた記憶しています。
コロナ感染中のクルーズ船に乗り込んで話題となった感染症専門医の
岩田健太郎神戸大教授は、かつてご自身のツイッターで
「日本の医療は周回遅れ」といわれていたことがありました。
湿潤治療の夏井睦医師は、著書「創傷治療の常識非常識」の中で、
「外科学の教科書を見渡しても「皮膚外傷」の文字は全くない。
(大学医学部では)誰もが経験する皮膚外傷については全く
教えられていない。教わる機会のないまま、皆医者になっている」
と書かれており、現場で先輩の手技を見よう見真似でやっているだけと
大学教育を批判しておられました。
熱中症診療に関しても、日本の学校の教育が遅れているのは、
事実ではないかと思います。
但し、日本医師会発行の国際マラソン医学協会医療救護マニュアルには、
CWIのことが救急医学会より、踏み込んで書かれており、
この点は評価されるべきと思います。
東京オリンピックでも、アイスバスが用意される予定だったそうですが、これまでの
日本の熱中症診療の中では画期的なことであり、わかっている人はおられるんだなあと
感心していました。
なお、本投稿の根拠は、
http://jemta.org/index_170820.html
に詳しく書かせていただいています。
以上です。
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AHA岡山BLS・JEMTA日本救命協会
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代表 久我清
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