2017年06月21日

Yさん (70代男性、老人施設事務、BLS更新2回)、76歳の入所者の窒息を救う



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http://jemta.org/index_170621.html
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こんにちは。
AHA岡山BLS・JEMTA日本救命協会の久我です。

このお話は、先週、弊会の AHA-BLSコースに来られたリピーター受講生の方が、コース初
めの自己紹介のコーナーで語られたお話です。

Yさんは70代の男性で、岡山市内まで、車で3時間もかかる遠方から来られました。ご自身
で高齢者施設を立ち上げられました。医療従事者でもなく、介護資格をもたれているわけ
ではありません。町内の役場によく通っているなかで、町立病院の看護師さんとよく話す
機会があり、その看護師さんが弊会の BLSコースに行くという話をしたら、自分も是非参
加したいと申し出られたそうです。Yさんは、看護師さんとご一緒に合計3回、弊会のBLS
コースに参加されました。

このお話は、2回目のBLSコースを受けたあと、1カ月後のことだそうです。
ご自身の施設の76歳の入所者の方が、食事中に窒息をおこしました。施設の看護師さんは
入所者の口の中を描き出して、異物を取り出そうとしたり、吸引器を使おうとしたそうす。
しかし、異物を出すことはできず、仕方ないのでベッドに連れて行こうとしたそうです。
入所者さんの顔色はみるみる青くなっていきました。

それを見たYさんは、これはまずいと思い、 BLSコースで学んだ腹部突き上げ法を自分で
行い、その後、CPRを開始しました。 119番通報してから7分後に救急車が到着したのです
が、到着する少し前に、入所者は息を取り戻し、救急隊は患者を見て、「もう大丈夫です
ね」と言われたそうです。Yさんは、BLSコースに来てよかったと話されました。
このお話では、医療者は患者を救うことができず、事務方が患者を救っています。

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日本は BLSの教育が遅れており、医療従事者でも、救命処置を適切に行えないことは多い
と思います。その問題が表面に出ていないだけです。
米国では、就職する際に、医療従事者免許のカードと BLSやACLSカードを提出しないと入
職できませんし、また、定期的に更新しないと勤務を続けることができません。日本での
問題点は、(1)制度の問題と、(2)職業人としての自己研鑽の必然性の2つあると思います。

(1)制度の問題
一般市民としては、医療者は、救急が専門であるかどうかに関わらず、ERにつなぐ、最初
の第1次の救命は完璧にできるはずだと期待されていますが、実際に現場で適切に行われ
ておらず、適切ではないことが表面にでていないだけです。1次救命スキル保持「制度」
としては十分に機能していません。教育行政を行う人たちが、まずそこを理解していない
と思います。医療者なら必須のスキルである、現場での第一次の救命処置のスキルが必須
だと思われていないのです。
まず、入職の前に1次救命を行うトレーニングを十分につんでいるのかどうかです。
(例えば学科の実習で50人の学生を相手に1時間程度の練習では不十分です。)
(実習後に、適切な試験を行い、その学生のスキル保持を対外的に証明するしくみが必要)
入職後に、定期的にトレーニングと試験を行う必要があります。

現状の制度としては、入職前にスキルや知識を持っていなくても日本では不問ですし、日
本の医師免許・看護師免許は、米国と違って、更新制度がなく、何も訓練しなくても勤め
ることが可能であり、1次救命に関しても定期的な訓練制度がありません。一度免許を取
得すれば、あと何もしなくても一生保証の国家制度になっています。
日本社会では、例えば一般市民でも、事故をおこして他の人を傷つけてはいけないからと、
運転免許ですら、更新制度があります。航空機の機長も人の命を預かる仕事なので、免許
更新制度があります。医療者は患者の命を直接預かる仕事で、侵襲的な行為も認められて
いるのに、医療資格を更新する必要がありません。国交省は、更新制度を作っているのに、
国民の生命を守るべき厚労省は制度を作っていません。米国の CDCやOSHAは積極的に国民
のために動いていると思いますが、厚労省は米国情報を引用するだけで自ら積極的に動い
ていないと感じます。一例ですが、日本蘇生協議会 (JRC)の元会長の岡田和夫先生は2008
年NPO救命おかやまの特別講演において、日本のILCOR関連の対応に関して、厚生省からは
途中で梯子をはずされて困ったとのお話をされておられました。
2千人医師へのアンケートによると、2割の医師はAEDを使う自信がないといっていますし、
院外での心停止を10秒以内に判断できると答えた医師は6割にとどまっています。
https://medpeer.co.jp/press/_cms_dir/wp-content/uploads/2014/06/News_20140612.pdf

(2)職業人としての自己研鑽の必要性
ILCORが世界最初の Advisory Statement(心肺蘇生に関する勧告)を出したのが1997年です
から、それよりずっと前に医療免許を取った方は、1次救命を一度も習っておらず、訓練
したこともないと思います。新しいことは、自ら選択して、自分の意志で訓練しないと、
できないはずです。院内でされている講習会の例を伺うと、短時間で大人数で行うため、
訓練が十分でなく、また最後にどういう実技試験をしてスキルを取得したか、対外的な証
明ができていません。
医学知識が2倍になるのに、1950年には50年もかかっていましたが、2010年には3.5年、
2020年にはわずか73日で、医学知識が2倍に増えるとの試算がでています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21686208
現場でご自身がご苦労された経験は、容易に忘れることはないと思いますが、新しいこと
を吸収して自分を絶えず進化させないと遅れをとります。学生の時に学んだ知識はすぐに
陳腐化します。知識やスキルを持っていないと態度や経験だけでは人を救えません。
一方、ネットの普及で、一般市民は容易に知識を検索できるようになり、職業人のスキル
を見る目は一層厳しくなっています。
「生きるために学ぶ」時代から、「学ぶことが生きること」と変容できるように自己研鑽
を深める必要があると思います。
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医療者だけについて書きましたが、これは業務の一環として、生命に関わる初期の対応が
求められる職業の方も同じです。(学校の先生、企業の安全衛生担当、警察官・公務員等)

以上です。


posted by jemta at 17:20| 日記