2016年08月23日

重度の熱中症で深部体温が40℃の患者を冷やすには、2℃の水風呂に浸けても、10分かかる。



本記事のURL
http://jemta.org/index_160823.html
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こんにちは。
AHA岡山BLS・日本救命協会の久我です。先日、以下のツイートを拝見しました。



https://twitter.com/mariaicu/status/766089297694908416

>熱中症で運ばれてきた学生、大量の発汗洋服がびしよびしょかとおもいきゃ、
>救急隊から、ちがうんですよ。学校で大量の氷と水をかけたので、
>直腸温38、6℃身体もあつい。逆に末梢がしまってしまいルート困難に。
>冷たすぎると体内にこもった熱が体表にでない。
>こもったままになってしまうのです。
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上記のツイートを見て、一般の方は、現場の看護師さんが言われるのだから『なるほど』
と思われた方もおられるかもしれませんし、
又、熱中症診療ガイドライン2015にも参考として書かれているゲルパッド水冷式体表冷却
装置を既に導入されて、冷却の温度勾配の感覚がわかっておられるERの方は、すぐさま、
上記の「冷たすぎると体内にこもった熱が体表にでない。」という部分は正しくないと感
じられたかもしれません。

結論から言うと、「冷たすぎると体内にこもった熱が体表にでない。こもったままになっ
てしまうのです。」という考えは科学的根拠がなく、物理法則に反します。
真実は、『冷却がまだ足りなかった』という事だと思います。恐らく皮膚表面が濡れて一
部は冷たかったのに、深部体温が高かったので、そう思われたのではないかと思います。
例えば、ゆであがったばかりの卵を、綿製の軍手の中に入れて、上から水をかけたり、氷
で囲んでも、すぐにはゆで卵の温度は下がりません。冷水につけてしばらく置かないと下
がりません。

・成人の体の6割以上は、「水」からできています。(比熱 = 4 [cal/(g・K)])
・熱力学の第2法則により、熱エネルギーは、高温から低温側に方に必ず移動します。

V度熱中症のように、例えば深部体温41℃の患者を氷水ほどの冷たい水につけても、深部
体温を3℃下げるのには9分〜24分かかります。(参考*2*3にある0.12〜0.35℃/分で計算)
学校で、大量の水や氷をかけたとしても、ずっとかけ続けなければ深部体温の下降はそう
期待できません。学校で大量の氷と水をかけた処置は大変良く、氷も使って冷やした処置
は適切でしたが、冷やす時間が短すぎて、深部体温を38.6℃までしか、下げることができ
なかったというのが真実ではないかと思います。

冷やし過ぎてシバリング(ふるえ)が起きて逆に体温が上がったり、低体温になるのは避け
るべきですが、人の体の比熱は大きくて、体表を冷やしても、深部体温はすぐには下がり
ません。

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AHAファーストエイドガイドライン(G2010日本語版S964)には以下のように書かれています。

「熱中症の傷病者に対し応急手当員がすべき最も重要な処置は 傷病者をただちに冷却す
ること。できれば顎(あご)まで冷水につからせる」
尚、このガイドラインの引用文献には、2℃の冷水が最も効果的と書かれています。

(ファーストエイドのガイドラインををよく御存じでない方にこの数値を示すと、大体、
皆驚かれます。医療従事者でさえ、もっと高い温度でやんわり冷やすべきだと思われてい
ます。ガイドラインは医療研究の結果を評価して、勧告が作られています。事実を誤解す
ることなく、理解するには、医療者は、最低でもガイドラインを読んだり、このベースと
なっている研究論文に目を通すべきです。AHAはEBMですから、少なくともAHA のインスト
ラクターは、AHA のガイドラインを読むべきです。現場で最も困るのは、責任ある立場の
方が、要旨も読まず、論文も読まず、ガイドラインも読まず、自分が正しいと信じて、疑
うことなく、確認せずに情報発信したり、立場の低い方におしつけることです。)
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以下に、参考文献*1に書かれているグラフを示します。

あごまで2℃の冷水につかると、平均皮膚表面温度は10分で約10℃になる。皮膚はとても
冷たくなります。




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直腸温(rectal temp)が40℃の時に、2℃の冷水につかっても、37.5℃に下がるまで10分も
かかります。




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体表面から腋窩や大腿動脈を氷嚢などで冷やす方法は簡便で行いやすい治療法ですが、冷
却効果が少なく、水風呂に比べて大きな効果は期待できません。

水風呂などで、体表面を冷やすことにより、体表温度が下がることはあたりまえです。
熱中症V度のように重症の場合、深部体温を正常値に下げるまでには、体表面はかなり冷
たくなるまで(10℃? or 20℃?)、 冷やさないといけません。冷やし過ぎかどうかは深部
体温を測らないとわかりませんが、シバリングを起こす前に冷却を止めるなどの注意は必
要だと思います。
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現場で深部体温を測るのは難しいでしょうし、詳細はわからないので、個人的な一般論で
すが、救急隊はMC医師と連携を取り、MC判断下で、可能であれば現場で、(氷)水風呂につ
けて、ある程度(10分未満)体温を下げてから、病院に運んだ方が予後がよいのではないで
しょうか?
ERの処置室に、水冷式体表冷却装置Arctic Sun 5000(400万円)のような設備
http://imimed.jp/product_review/page_24.html
を導入できている施設はあまりないと思います。本来は重度熱中症の治療には、水風呂に
氷を入れて浸漬させるのが最も効果的です。(水温が10℃未満であれば、直腸温38.6℃、
10℃以上であれば37.8℃で冷却を止めれば、低体温を生じることなく、安全であった報告
があります。*4)しかし、ERの処置室に水風呂をおくスペースを確保することは困難な状
況だと思います。

熱中症ではなく、心停止の場合は、病院に運ぶ前にバイスタンダーや救急隊がその場で、
CPR/除細動することは、既に一般的になっています。熱中症の場合も同じで、救急隊は病
院に運ぶことより、現場で水風呂につけ、深部体温を下げてから病院に運ぶべきです。日
本の場合、119番通報して、救急車が来るまで8分かかり、病院収容までは38分かか
っています。今後は、消防は熱中症の時期は、消防署に氷の備蓄をし、熱中症の通報があ
ったら、PA連携で、タンク付消防車を救急車に同行させ、熱中症の評価をMC下で行い、使
用できる風呂を探して、そこにポンプ車からすぐに水を入れて、傷病者をあごまでつけて
氷を入れて、かき混ぜながら、9分 未満で冷やすべきだと考えます。(シバリングがでた
ら中止)

熱中症診療ガイドライン2015には、以下のように書かれています。
労作性熱中症に対しては、ショック状態など生命を脅かす合併症が存在しない限り、病院
に搬送する前に水槽に浸漬させる、または大量の水を噴霧させるなどして、できるだけ早
期から冷却処置を行うことが推奨されている*4
冷水への浸漬の効果に関する研究では、2℃の水に約9分浸漬させることで直腸温が39.5℃
から38.6℃まで低下すること、目標温度を直腸温38.6℃とした場合は処置を終えた後に低
体温に陥らないことも報告されている*4


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P.S.
本投稿で初めに紹介した上記のツイートを見られた方が、熱中症の時に『冷やし過ぎはよ
くないんだ』と過剰に思われて、冷却が不十分になると、予後が悪くなります。重度の熱
中症の場合は生命の危険があります。
本投稿では、他人のツィートに突っ込んで大変申し訳ありませんでしたが、予後が悪くな
る傷病者が今後増えるといけないと思い、本投稿をしました。


参考文献
*1
Effect of water temperature on cooling efficiency
during hyperthermia in humans
http://jap.physiology.org/content/jap/94/4/1317.full.pdf

*2
Exertional Heat Stroke: New Concepts Regarding Cause and Care
http://journals.lww.com/acsm-csmr/pages/articleviewer.aspx?year=2012&issue=05000&article=00006&type=abstract

*3
猛威を振るう熱中症! 治療はどうする?
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/yakushiji/201607/547608_2.html

*4
熱中症診療ガイドライン2015
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf

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以上です。


posted by jemta at 23:08| 日記